大入札会 特集記事Ⅺ 岡山ゆかりの茶人と作家~某家旧蔵コレクションより~

  • 令和8年7月の思文閣大入札会では、「某家旧蔵コレクション」と題し、岡山県の旧家よりお預かりした品々をご紹介いたします。幕末から栄えた商家で大切に蒐集・保存されてきたもので、樂焼をはじめとした貴重な茶道具・食器の数々や、文人趣味の逸品、地元岡山にゆかりのある品々などが集まった、ユニークなコレクションとなっております。
    今回の特集記事では、その中から岡山県やその周辺地域にゆかりのある茶人・作家の品々について、紙面には書ききれなかった情報も交えてご紹介いたします。本入札会では珍しい品もございますので、お愉しみいただければ幸いです。
  • 三猿斎と虫明焼 三猿斎と虫明焼 三猿斎と虫明焼

    三猿斎と虫明焼

    ・伊木三猿斎(1818~1886)
    伊木忠澄は、幕末の動乱期に岡山藩筆頭家老として活躍した武士であると同時に、茶の湯を愛した風流人でもありました。隠居後は「三猿斎」と号し、茶の湯を深く楽しんだと伝えられています。現在、大徳寺に祀られる利休木像は、三猿斎の遺言によって寄進されたもの。茶道への並々ならぬ思いがうかがえるエピソードです。(ちなみにこの利休木像は今年秋に東京国立博物館で行われる大徳寺展で公開されます!)
    今回のコレクションでは、自筆の筒書のある茶杓(LOT 023)、「三」の印銘がある虫明焼の水指(LOT 024)と香炉(LOT 044)が出品されております。
    また、「寿 百二十七翁」という書付のある《赤楽茶碗 寿》(LOT 012)は、銘や箱書こそないものの、同手のものが三猿斎手作りの茶碗として京都・国富家に伝えられていることから、三猿斎作の可能性が高いと考えられます。書付の「百二十七翁」とは、伊木家の山屋敷に住んでいた延寿庵覚円という長寿の人(文字通り信じれば127才!)で、三猿斎とも懇意にしていた人物だったようです。
     
    ・虫明焼の再興
    天保13年(1842)、虫明にあった伊木家の御庭焼である池ノ奥窯が伊部焼(備前焼)の偽物を焼いていると、伊部窯の人々に訴えを起こされる事件が起こります。この訴えは事実上認められる形となり、池ノ奥窯は廃窯。そこで三猿斎は新たに自身の御庭焼として虫明に立場窯という窯を築き、初代清風与平や初代宮川香山といった京の陶工を招いて好みの茶器を焼かせ、地元の陶工たちの指導に当たらせました。これにより虫明焼は、京風の雅やかさと多彩さを備えたやきものへ刷新・発展し、現在へと受け継がれることとなりました。
    初代宮川香山造《菁華向附 五客》(LOT 053)は、明治3年(1870)の虫明での作。なお、絵付をした菊渓幽人とは、3代清風与平の実父・清山を指すと見られ、虫明で染付の絵付を手掛けていた人物であったようです。
  • 岡山の円山・四条派 岡山の円山・四条派 岡山の円山・四条派

    岡山の円山・四条派

    江戸後期の岡山は、岡本豊彦、柴田義董といった四条派の重鎮を輩出した地でもありました。今回のコレクションから、彼らに師事したのち、岡山でも制作した幕末から明治にかけての四条派絵師である古市金峨と大原呑舟、そして備後福山の円山派絵師・藤井松林をご紹介します。
     
    ・古市金峨(1805~1880)
    児島郡尾原村(現在の倉敷市)出身の古市金峨は、京都に出て岡本豊彦に師事し四条派を学びました。30才のころに帰郷して以降は、岡山県下で作画活動を続けつつ、県内各地で後進の指導にあたり四条派の普及に尽力します。《月夜山水図 双幅》(LOT 141)は「山水は豊彦」と呼ばれた師にも似て写実性と軽やかさを両立した山水画です。
     
    ・大原呑舟(1790~1857)
    徳島県生まれの大原呑舟は、瀬戸内市出身の柴田義董に四条派を学びました。倉敷市出身で同門の小野雲鵬と同居した縁で岡山にも頻繁に足を運び、多くの作品を残しています。「人物は義菫」と呼ばれた師に学んだ人物画や山水画に定評があり、その伸びやかな筆致は《飲馬図》(LOT 142)にも見ることができます。
     
    ・藤井松林(1824~1894)
    福山藩士の長男として生まれた松林は、円山派の中島来章に師事し、森寛斎や幸野楳嶺らと肩を並べて画を学びました。その後は福山藩の絵図師として地形絵図や戊辰戦争での絵図面などを作成する仕事の傍ら、画家としての制作を続けます。維新後は画業に専念し、明治22年(1889)には宮中の命により《游鯉図》を宮中へ献納するなど活躍。今回の《楓樹鯉魚之図》(LOT 143)は彼が得意とした鯉が精緻に描かれた作品です。
  • 岡山県の近代日本画 岡山県の近代日本画 岡山県の近代日本画

    岡山県の近代日本画

    もちろん地元・岡山出身画家の作品も見逃せません。高い人気を誇る小野竹喬、そして弊社大入札会ではなかなか出会えない、森安石象と高橋秋華をご紹介いたします。
     
    ・小野竹喬(1889~1979)
    日本の自然風景の美しさを描き、近代日本画を代表する存在のひとりとなった小野竹喬は岡山県笠岡市生まれ。瀬戸内の自然と穏やかな気候に育まれた人でした。《雨霽》(LOT 136)と題し、雨上がりに晴れ渡る空を描いた本作も、清らかな竹喬芸術の一端を感じる一品です。
     
    ・森安石象(1879~1952)
    岡山市出身の森安石象は京都で谷口香嶠に師事。歴史画を得意としており、のちに帰郷し岡山で制作をつづけました。今回は3点出品(LOT 137-139)されていますが、《国宝色々縅大鎧図》(LOT 139)は佐々木盛綱が源平合戦・藤戸の戦いで使用したと伝えられている「色々縅大鎧」(瀬戸内市・豊原北島神社所蔵)に取材したもの。藤戸寺(倉敷市)には石象が描いた《盛綱先陣図》が納められており、その研究のために描いたものだったのかもしれません。
     
    ・高橋秋華(1877~1953)
    現在の岡山市に生まれた高橋秋華。はじめ同郷の石井金陵に学び、その後京都で都路華香、山元春挙に師事しました。日露戦争戦捷記念博覧会、文展などで受賞を重ねると、宮家からも作画依頼を受ける人気作家のひとりとなります。昭和5年(1930)には明治神宮に奉納された《御降誕》を手掛けました。花鳥画を得意として地元にも根強く人気があったようで、たびたび地元の愛好家による展示が行われていたそうです。今回は花鳥画の二枚折屛風《田園》(LOT 140)を出品。鶏の羽を繊細に描いた迫力ある一作です。
  • 出雲ゆかりの人々 出雲ゆかりの人々

    出雲ゆかりの人々

    本コレクションには、岡山だけでなく出雲にゆかりのある作品も含まれています。蒐集者の交流が地域的な広がりを見せていたことがわかる品々です。
    ・松平不昧(1751~1818)
    松江藩主でありながら屈指の茶人として知られる松平不昧の消息(LOT128)と和歌を揮毫した掛軸(LOT129)を出品いただきました。消息は福知山藩主朽木昌綱宛のもので、昌綱に依頼された茶箱に書きつける和歌の好みを尋ねる内容です。「自作の歌を書きつけてほしい場合、値段は高くつきます」、と締めくくられているのがなんともいえないおかしみがあります。
     
    ・小村大雲(1883~1938)
    現在の島根県出雲市に生まれた日本画家、小村大雲。京都で山元春挙に師事し、文展で入賞。早苗塾門下生の四天王と称えられ、山水、人物、動物、歴史画と画題を問わず描いた実力派でした。今回の6点の出品作(LOT 130-135)もまさに彼の多彩さが分かるラインナップ。中でも《瀑布》(LOT 135)は総巾103cmの大画面に迫力ある表現がみどころです。
  • 「某家旧蔵コレクション」では、本記事でご紹介した作品を含む、総数143点を出品いただきました。岡山ゆかりの品々の他にも、樂家の名工による茶碗や数物の食器、竹内栖鳳や富岡鉄斎といった人気作家たちの作品もございますので、ぜひ大入札会専用サイトからご覧いただければ幸いです。
    なお、本コレクションはこれまで市場に出たことのない初生(うぶ)な品のため、状態が必ずしも万全でないものもございます。気になる作品がございましたら、大入札会LINE公式アカウントからお問合せください。京都・ぎゃらりぃ思文閣での下見会でも実物をご覧いただけますので、お気軽にお立ち寄りくださいませ。

     

     

     

    大入札会下見会 開催概要
    2026年 7月6日 – 7月12日  *入札締切 17:00
    LOT 001~270 ぎゃらりぃ思文閣 <Google Maps>
    LOT 301~331 思文閣銀座 <Google Maps
    10:00 – 18:00 *最終日は17:00迄