大入札会 特集記事Ⅵ 佐藤一斎 肉筆からその実像を辿る

  • 大入札会 特集記事Ⅵ 佐藤一斎 肉筆からその実像を辿る

    江戸時代末期、外国船の来航が相次ぎ時代の変革の機運がにわかに高まってきた時代、儒学者・佐藤一斎(1772~1859)は、幕府の儒官として将軍や諸大名に教えを与えたほか、朱子学と陽明学を折衷した独自の思想で渡辺崋山、佐久間象山をはじめとした弟子にも多大なる影響を与えました。一斎の語録をまとめた『言志四録』は、のちに西郷隆盛が座右の書として心酔したことでも知られており、一斎の教えは「指導者のバイブル」として今尚、時代を率いるリーダーやビジネスマンたちに受け継がれています。
    今回、令和7年11月思文閣大入札会では、佐藤一斎の肉筆の書画を四点お預かりいたしました。このコラムでは、活字になった資料からだけでは見えてこない一斎の実像を、彼が遺した筆跡から辿っていきます。
  • 朱子学の大家として

    朱子学の大家として

    LOT 084 《朱文公像》(鈴木鵞湖 画)
    南画家・鈴木鵞湖(すずき・がこ)の朱子像に一斎が賛をつけています。朱子(朱熹)が自画像につけた賛の引用で、「礼法を実践し仁義に思いふけることが私の意図であるが、うまく進められていない。先人の遺した格言や優れた規範を意識し日々手探りで修養に励んでいる」と自らを戒める内容です。
    江戸時代、朱子学は幕府の官学として定められた学問でした。佐藤一斎は代々幕府の儒官となった林家八代の林述斎(はやし・じゅっさい)門下で朱子学を学び、34才で林家の塾長になります。その後も儒者として岩村藩や幕府に仕え、70才のときには昌平坂学問所の儒官に任じられました。江戸時代、昌平坂学問所の儒官が賛を記した朱子像は学舎に掲げられるなど、朱子学を学ぶ人々の尊崇の対象となり珍重されました。佐藤一斎が公の学者として確かな存在感を見せていたことが分かります。
  • 垣間見える文人趣味

    垣間見える文人趣味

    LOT 083 《墨竹図》
    賛は自作の詩で、「この墨竹は私の精神の修養が実を結び、自分が心に思い浮かべた竹をそのまま表すことが叶ったもので、それが『韈材(べつざい)の妙訣』(竹画の名手である宋の文同が実践していた、竹を描く最も優れた方法)である。世の画家たちは技巧を凝らすばかりでそのように内面を鍛えられていない」という内容。
    「韈材」とは足袋の材料のこと。文同が、ある時自身の竹画を求めて殺到する人々に嫌気がさし、人々が持ってきた絹を地面に投げ捨てて「こんなものは足袋にしてしまえ」と言ったという故事を踏まえています。
    余技に絵筆を取り、自負に満ちた賛文を付した、一斎の多才さと文人趣味がよくわかる一幅であり、この賛は弟子の渡辺崋山が自身の墨竹図に引用するなど、こういった文人としての一面も尊敬されていたことが伺えます。
  • LOT 098 《「録張横渠詩」七絶二行》 北宋の儒者・張載(ちょうさい)(張横渠・ちょうおうきょ)の詩を引用した揮毫で、平和な治世で無欲に生きることを美徳とする古来文人が理想としてきた隠棲生活が詠まれています。力強くも落ち着きのある筆遣いです。一斎は篆隷楷行草を自在にこなした書の名人としても知られており、晩年には、本作やLOT 097(「題備後三郎高徳図」七絶三行)に見られるように、当時流行した文徴明風の書風とも異なる、独自の力強く雄大な筆致を確立していました。
    LOT 098 《「録張横渠詩」七絶二行》
    北宋の儒者・張載(ちょうさい)(張横渠・ちょうおうきょ)の詩を引用した揮毫で、平和な治世で無欲に生きることを美徳とする古来文人が理想としてきた隠棲生活が詠まれています。力強くも落ち着きのある筆遣いです。一斎は篆隷楷行草を自在にこなした書の名人としても知られており、晩年には、本作やLOT 097(「題備後三郎高徳図」七絶三行)に見られるように、当時流行した文徴明風の書風とも異なる、独自の力強く雄大な筆致を確立していました。
  • 新時代の兆し

    新時代の兆し

    LOT 097 《「題備後三郎高徳図」七絶三行》
    備後三郎高徳(児島高徳)は南北朝時代に後醍醐天皇に仕えた武将。後醍醐天皇が元弘の変に敗れ隠岐へ流される際、高徳は道中で天皇を奪還しようと試みるも果たせず、その志だけでも伝えようと、天皇の宿所に忍び込み、庭の桜木に漢詩を刻み付けたという故事に基づいた七絶です。
    「八十八叟一斎藤坦書」という落款から、安政6年(1859)の筆と見られます。外国船の接近や幕藩体制の動揺により、幕府への批判と相まって尊王思想が高まりを見せたこの時期、児島高徳は忠君愛国を象徴する英雄として注目が集まっていました。一斎はこの年、88才でその生涯を閉じますが、彼の思想は弟子のみならず、吉田松陰や西郷隆盛ら明治維新の立役者たちにも影響を与えていきます。そんな時代の変化の兆しを感じさせる一幅です。
  • 佐藤一斎( 1772~1859 ) 幕末の儒者・漢学者。江戸生。文永の次子。名は信行・坦、字は大道、別号に愛日楼・老吾軒。中井竹山・林簡順の門に入り儒学を学ぶ。安政6年(1859)歿、88才。  

    渡辺崋山筆「佐藤一斎(五十歳)像」(部分)(東京国立博物館蔵)

    ※国立文化財機構所蔵品統合検索システムの画像を加工して作成

    https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-12055

    佐藤一斎( 1772~1859
    幕末の儒者・漢学者。江戸生。文永の次子。名は信行・坦、字は大道、別号に愛日楼・老吾軒。中井竹山・林簡順の門に入り儒学を学ぶ。安政6年(1859)歿、88才。  
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    今回は、佐藤一斎の書画四点をご紹介いたしました。
    『言志耋録』(げんしてつろく)にて一斎は、「古書画は、皆古人の精神の属する所にして、書は尤も心画たり」すなわち、書画、とりわけ書は、古人の精神が宿る“心画”である、と語りました。そしてそういった古書画に相対することで古人に敬意を払って追慕し、自分の心を修養するようにと説いています。皆さまも一斎がその手で書いた書画に直に接すると、そこに込められた一斎の精神がより真に迫って感じられるのではないでしょうか。
    令和7年11月入札では佐藤一斎のほかにも、一斎を敬愛してやまなかった西郷南洲をはじめとした幕末志士たちの書も出品されております。
     
    思文閣大入札会を通じ、先人たちが筆に込めた思いや息遣いを感じていただければ幸いです。京都・ぎゃらりぃ思文閣の下見会では、今回ご紹介した書画を含めた出品作品全点を実際にご覧いただけますほか、大入札会専用サイトでも詳細画像の閲覧・ご入札が可能です。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

     

     

    大入札会下見会 開催概要 ※終了している入札会の出品作品はご購入いただけません。ご了承ください。
    2025年 11月4日 – 11月9日  *入札締切 17:00
    ぎゃらりぃ思文閣 <Google Maps>
    10:00 – 18:00 *最終日は17:00迄
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