大入札会 特集記事XIII めでた掛け

  • 大入札会 特集記事 XIII めでた掛け

    大入札会 特集記事 XIII めでた掛け

    秋も深まる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

    本年最後の大入札会となります今号の特集記事は、「吉祥画」です。

    吉祥画とは、長寿や繁栄、出世など、人々の願いを込めて描かれた絵画のことを指します。そのモチーフの多くは中国を起源としますが、富士山など日本独自の画題も生まれながら、長く描かれ続けてきました。とりわけお正月は家族や親戚が集まり、一年の始まりを寿ぐ機会とあり、床の間に飾るものとして吉祥画題を描いた「めでた掛け」は大変よろこばれてきました。

    今回は、そんな代表的な吉祥画題を取り上げ、その由来とともに出品作品をご紹介いたします。

  • 1 不老長寿と君子の象徴 松

  • 『論語』子罕第九には

    「子曰く、歳寒くして、然る後に松柏の彫(しぼ)むに後(おく)るるを知る」

    という言葉があります。これは、厳しい寒さの中でも最後まで青々とした葉を保つ松の姿になぞらえ、世の中が乱れたときこそ、君子は節操を守り、その真価を発揮することを説いたものです。

    このことから松は、節操を変えない君子の喩えとして、同じく冬でも青い竹、冬に花を咲かせる梅と合わせて中国の花卉画の画題に喜ばれてきました。

    また老いてもなお緑を保つ松は、「百木の長」とも言われ、不老長寿を象徴する神聖な木としても考えられてきました。

    この思想は平安時代ごろには日本にも伝わっており、お正月には神様を招く依り代として門松を飾るように、松を敬愛する感性は日本の文化にも深く根付いています。

     

  • 2 鶴は千年

  • すらりと伸びた首と脚、白・黒・赤の美しい配色を持つ鶴は、その優雅な姿と長い寿命から、古くより瑞鳥として尊ばれてきました。

    中国では神仙思想と結びつき、『列仙伝』には仙人・王子喬が鶴に乗って昇天するなど、仙禽として扱われます。また、『淮南子』の「鶴、千歳を寿として以て其の游を極め」という一節から、「鶴は千年」と長寿の象徴にもなりました。この考えは日本にも伝わり、長寿を願う人々の生活に浸透してきました。

    川合玉堂の双幅《(左)笹鶴(右)若松》(LOT 045)に描かれているように、鶴は二羽一組で描かれることも少なくありません。鶴は一度つがいを決めると生涯添い遂げる習性をもつことから、夫婦円満や家運隆盛の願いも託されてきました。川端玉章《松鶴図屛風》(LOT 044)では雛の姿も描かれ、家族の繁栄を象徴する温かな情景が表現されています。

  • 3 寿命を司る福の神 寿老人

  • 寿老人は中国の道教に由来する仙人で、寿命を司る神として、七福神の一柱に数えられます。

    長いひたいを持ち、巻物を掛けた杖を携え、傍らに牡鹿を従えた姿で描かれることが多く、長寿の象徴として親しまれてきました。

    橋本関雪《梅花寿星図》(LOT 057)では、こうした典型的な寿老人像とは少し異なり、三頭身の愛らしい姿が描かれています。その親しみやすい表現には、関雪ならではの遊び心が感じられます。作品名にある「寿星」とはりゅうこつ座の恒星カノープス(南極老人星)の化身とされる寿老人の別名です。

    また、同じく関雪の《寿山福海図》(LOT 056)には寿老人の名こそ見られませんが、よく似た人物が登場しており、作家独自の寿老人観をうかがうことができます。

     

  • 4 生まれ変わる太陽 日の出

  • 一年でもっとも昼が短くなる冬至は、この日を境に太陽が生まれ変わるとも言われ、正月やクリスマスの祝祭と合わせて世界中で祝われてきました。昇る太陽は新たな始まりの象徴とされ、日本でも初日の出の画題は正月掛けとして好まれてきました。

    また朝陽は、太陽の昇る東の海に浮かぶわが国、日本の象徴として描かれることもありました。特に明治以降は国威発揚の意味も込めて、多くの近代日本画家たちが旭日図を描いています。

  • 5 日本一の山 富士山

  • 最後は日本を代表する吉祥画題である富士山です。

    かぐや姫伝説にも登場するように、天にもっとも近い山であり、雪を頂き、ときに噴火する富士山は、「不二」や「不死」の文字が当てられ古くから神仏が宿る霊峰として信仰されてきました。

    「一富士二鷹三茄子」と言われるように、初夢に見ると縁起が良いものの筆頭としても知られています。富士山は正月との縁も深く、吉祥画題として長く愛されてきました。

    平安時代には画題として描かれていたとされますが、日本人の富士山への憧れは今なお尽きることがありません。近現代の画家たちも、それぞれの視点から富士山を描き続けています。

    本入札会に出品の、棟方志功《富嶽図》(LOT 016)は紅地に墨と金泥という吉祥画らしい色遣いながらも、墨一色の濃淡を繊細に使い分けて富士を描き切る見事な技が見どころ。片岡球子の《富士》(LOT 021)は夏から秋の風景と見え、正月掛けとしては番外篇ではありますが、聖なる存在として富士を描き続けた画家による独創的な表現を楽しむことができます。その他、水墨で堂々たる富士を描いた巨匠・川合玉堂から、もっともミニマルで禅画的に意匠化された裏千家家元・鵬雲斎の掛軸まで、多彩な富士図をご堪能ください。

  • おわりに

    今回の特集記事では「めでた掛け」をテーマに江戸時代から近現代にいたる画家たちが描いた吉祥画をご紹介いたしました。画題に込められた願いや物語、そして作家それぞれの個性にもぜひご注目いただきながら、新春を寿ぐにふさわしい一作との出会いとなれば幸いです。

     

    大入札会下見会 開催概要
    2026年 11月2日・4日 – 8日  *入札締切 17:00 *11月3日(火・祝)は休廊
    思文閣 本社 (Google Maps)
    10:00 – 18:00 *最終日は17:00迄

     

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