大入札会 特集記事Ⅻ 掛軸の装い——本紙と表具が織りなす世界

  • 大入札会 特集記事Ⅻ 掛軸の装い——本紙と表具が織りなす世界

    作品をお手元でお愉しみいただく時には、作品を彩り支える表具も見どころのひとつです。表具には長い伝統があり、形式や裂地ひとつとっても伝統に基づく美意識に裏打ちされています。そういった格式が高い表具の話からは逸れますが、今回の入札会では、表具に特別な趣向を凝らした掛軸の作品が数多く揃いました。カタログでは紹介しきれなかった、画や書を引き立てる個性豊かな装飾をご紹介いたします。
  • ●作品ゆかりの裂

    掛軸を仕立てるのに使われる裂地の中には、特別な紋様を施されたものがあります。作品ゆかりの紋様で表装されることで、より作品のもつ意味合いが強く、特別な一幅に仕上がっています。
  • 109 徳川秀忠《五月卅日付書状》
    2代将軍・徳川秀忠の書状の表具は、一文字と風帯に徳川家の家紋、三つ葉葵紋が使われています。
  • 141 表千家13代 即中斎 賛《長刀鉾扇》
    こちらは祇園祭の先頭をつとめる長刀鉾、その音頭取りが用いる扇子に即中斎が歌を書きつけた一幅。一文字と風帯には、祇園社の社紋である唐花木瓜紋と巴紋があしらわれます。
  • 067 今尾景年《松芝群禽図》
    景年の掛軸は、一文字と風帯に「景年」「永歓」といった、実際に景年が使用していた印文をデザインした裂地が使われています。作家のために特別に作られた、専用の表具です。
  • ●手描きの紋様

    表具の色柄は基本的に紙や裂地の染めや織りに由来するものですが、中には手描きでデザインされた表具もあります。手描きならではの味わいにご注目ください。
  • 061 岸田劉生《茄子》
    さらりと描かれた茄子に、賛は茄子を高僧に見立てて揶揄するような内容です。「為小万」とあり、おそらく芸者に宛てた席画のようなものかと思われます。よく見ると、一文字の装飾は手描きです。劉生自身の手によるものかはわかりませんが、ゆるく崩された図様は、作品そのものともよく調和し、実に洒脱な一幅となっています。
  • 114 大田垣蓮月《「花の比野々宮にまうてゝ」和歌》
    蓮月が、桜の盛りに野々宮神社に詣でて詠んだ和歌を書きつけた短冊です。中廻しには、菊の絵が描かれた裂が使われています。春の景色を詠んだ和歌に対して、秋の花である菊が添えられているのは不思議に思えますが、一幅の中に春秋を揃える遊び心でしょうか。
  • ●描表装

    表具の各部を手描きしたり、本紙以外の部分に作品に関連する装飾を描きいれたものを「描表装(かきびょうそう)」や「描表具」と呼びます。作者本人が表具まで含めて描き上げるもの、別の作家が作品に添った画を添えたものなどありますが、いずれも本紙と表具とが一体となって、ひとつの世界観を構築しています。
  • 098 横山清暉《幣擺図》
    清暉の作品の表具に、清暉の弟子である村瀬双石が双葉葵の画を添えています。緌(おいかけ)を付けた武官が幣(ぬさ)をささげる姿を描いた作品に、賀茂社の社紋に使われる二葉葵が添えられ、より神事の性質が強調されています。本紙と表具で、師弟の合作となっているのも見どころです。
  • 100 森狙仙《(左)樹上孤猿(右)二疋猿》
    狙仙が猿を描いた小品に、「玉秀」が蜂の画を添えた双幅です。小さいですが、よく見るとそれぞれの猿の視線の先に蜂がおり、配置に工夫が凝らされています。猿と蜂の組み合わせは、中国語で「蜂」の音が「封」、「猴(猿)」の音が「侯」に通じ、合わせて「封侯(諸侯に封ずる)」となるため、立身出世をあらわす吉祥図とされていました。玉秀については詳細がわかりませんが、大正時代に玉井玉秀という画家がおり、おそらくこの人物かと思われます。当時狙仙の猿図を手にした人が、蜂を描き添えることにして吉祥図としたのでしょう。作品と表具が組み合わさることで、画そのものを楽しめることに加え、おめでたい掛軸に仕上がりました。
  • 最後に、作者自身が表具まで含めて作品とした「描表装」の真骨頂ともいえる作品をご紹介します。
     

     

    087 小林清親《仁徳天皇御影》

    中央に、慈悲深い笑みを浮かべる人物が描かれています。本紙との境に見える部分や一文字まですべて手描きです。中廻しには所せましと生活を送る人々が描かれ、かまどからたなびく煙が一文字を突き抜け本紙にかかっています。この表装から、描かれている人物は仁徳天皇だとわかります。仁徳天皇は古墳時代に仁政を敷いたとされ、とくに「民のかまど」のエピソードで知られています。ある時天皇が高台からあたりを見ると、民家から煙が立ち上っていない。民の生活の困窮を察した天皇は、課税を休止しました。天皇自身も倹約につとめ、だんだんと人々の生活には活気が戻っていきます。高台に登ると、民家からは煙が上っていました。「高き屋にのぼりて見れば煙たつ 民のかまどはにぎはひにけり」。新古今和歌集にも採られた御製の景色を、表具まで用いて大胆に表現した一幅です。
  • 今回の入札会に出品される、特別な趣向を凝らした表具をご覧いただきました。装丁まで含めて、我々の目を楽しませてくれる掛軸。普段はなかなか表具の詳細までご紹介することがかないませんが、それぞれに作品を引き立てる工夫が施されていますので、お気に召した作品にはどのような表装がなされているかにもご注目ください。大入札会専用サイトでは表具も含めた作品全体の写真をご確認いただけますので、ぜひご利用くださいませ。

     

    大入札会下見会 開催概要
    2026年 9月7日 – 9月13日  *入札締切 17:00
    思文閣 本社 (Google Maps)
    10:00 – 18:00 *最終日は17:00迄